ちょびっと険悪 〜シークレット・エンヴィ
                 〜789女子高生シリーズ

          *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
           789女子高生設定をお借りしました。
 


 当日ほどあんまり騒がぬそれでもあるハロウィンを、それでも世間様の一部は堪能するのだろ日をようやく迎え。これさえ明ければ、いよいよの 11月へと突入…と相成って。

  それでなくとも 11月といや

 学園祭という大きな催しが、視野いっぱいという間近にまで迫っており、我らがキューティなお嬢様たちも、俄然その忙しさが増しておいで。授業は半日の短縮となるものの、一応は籍を置いているそれぞれの部活動でも、伝統の出し物とやらがあるそうなので、

 「草野先輩、水回りの分担表が出来ました。」
 「そう。
  では各部へ配布して、最終確認を取ってくださいな。」

 剣道部の主将である白百合様こと七郎次は、当日の校庭で催される、武道部合同の屋外カフェの打ち合わせにも、しばし呼び出される身であったりし。

 「林田先輩、
  此処の一角のモチーフって、どう固定するんですか?」
 「ああ、そこはね。
  コーナー用の三角の棚材があるので、突っ張り棒で…。」

 美術部の幽霊部員だと日頃からも豪語している、ひなげしさんこと平八は。正面玄関から連なるホールや、来賓用待ち合い室への、作品の特別展示の“設営デザイン”を受け持ったので。当日は暇な身にしてもらえる分、企画の原案だけ出しゃあいいってもんじゃなし、寸前までの準備期間はほぼずっと、資材の調達やら会場での設置作業への助言などなど、当人がいなくとも大丈夫なようにというレベルへまで、きっちりとプランニングを煮詰めていなさり。

 「あのあの、三木先輩?」
 「?」
 「部の斉唱発表は来賓公開日と一般の日の両方ありますが。」
 「…。(頷)」
 「先輩はどちらの伴奏をなさいますか?」
 「……。」
 「えっとえっと…。///////」

 コーラス部で伴奏係を担当している、紅バラ様こと久蔵殿は。基本的にはあんまり日頃と変わらぬ扱いみたいだが。
(苦笑) それでも発表曲のレッスンには、日頃以上の長い時間をお付き合いしているし、皆でお揃いのコサージュをつけましょうよと提案した子がいたものだから、

 「三木先輩のは私がお作り致しますわ。」
 「あら、私が。」
 「何よぉ、私のほうが見栄えよく作れますことよ。」
 「でもでも、紅バラのにしましょうよと提案したのは私ですわ。」

 「………。(〜〜〜)」

 これはこれで、まあ…大変なのかも知れぬ。
(う〜ん)

 「慣れないことをしているのですから、
  手際が悪いのは仕方がないと、判ってはいるんですけれど。」

 「それでも一年の何とかさんの、
  のんびりさ加減には参ってるんじゃないですか?」

 時々こめかみに血管が浮いてますよ、シチさん、と。たまたまそんな場面を見たらしい平八が揶揄すれば。

 「そういうヘイさんこそ、
  ポケットの中に手榴弾を潜ませとくのは、どういうお守りですか?」

 手首がぎゅうと節を浮かせるのを見るたんび、うあ怖いって身が竦みますよと、七郎次もまた、垣間見たらしい半ギレ状態の話を持ち出したりし。

 「???」
 「あ、ああいえ。何でもないんですよ、久蔵殿。」
 「そうそう。そーんな危ないものなんて持ってませんて。」

 そういや、久蔵殿のお見合いの騒動のときに、既にヘイさんたら、そういう物騒なものを持ってたんでしたっけねぇ。(ドキドキ) 時にそこまでの苛立ちを抱えつつ、それでも頑張って、お仕事やらドタバタやらをこなす傍らで、

 「あ、草野さん。」
 「三木さんも、衣装の方が整いましたのvv」
 「林田さんにはもう、試着してもらいましたのよ?」

 クラスの方での模擬店参加では、皆様からの圧倒的な推薦で、当日のお運びさん こと“メイドさん”を担当することなったため。まとう衣装の手配も含め、物品の確保や飾り付けへの下準備などなどという、前日までのお仕事をほとんど免除されているものの、

 「そっちは是非ともお手伝いしたいと、
  ついつい感じるのはどうしてでしょうか。」
 「あれですね、
  あまりに危なっかしいからでしょうね。」
 「〜、〜、〜。(頷、頷、頷)」

 久蔵殿にまで真摯に案じられてちゃあ世話はない。
(おいおい) とはいえ、これ以上忙しくなったなら別の方面への支障が出かねず。人間には限界というものがあるので、全部へと手をつけられないのなら、どれかは諦めなくてはならない道理。大人だった部分は“さもありなん”と、早いめに納得を連れて来たのにね。実質の育ちが追いついていない、青い心の伸びやかさがついつい顔を出し。どこかがざわざわしていて落ち着けない、そんな心地もしないではなくて。

 「うんと遠くまでを見通せるとか、そういうもんだと重々知っているのと、
  諦めるか食い下がるかの決断をする折に刺激される部分とは、
  頭と胸ってくらい、担当部位が異なるのかもですね。」

 実体験があっての確たる理屈で“無理”とか“ダメ”とか判っていても、でもでもと、感情が未練がましくもなかなか静まってくれない。一人の人間のうちにても、そんな温度差ってあるもんなんですねと、しみじみと呟いた平八だったのへ、

 「うん、そうだよね。」
 「………。(頷)」

 葛藤は多いが、それでも食欲は落ちないぞと。唐揚げだの肉団子の甘辛あんかけだの、サラダ巻きだの。それぞれの好物でまとめたお弁当、頑張ってのもりもりと平らげて。今はおやつの、八百萬屋謹製スイートポテト、お膝に乗っけて人心地ついてた三人娘。以降の時間は、しばらくほどバラバラな行動となるものの、

 「でもね、アタシらにはもう1つ、大仕事もあるワケで。」
 「そうなんだよねぇ。…あ、久蔵、メイプルシロップあるよ?」
 「…vv(頷)」
 「ここにかけるのね、はいどーぞvv」
 「あ、アタシもそれ欲しいvv」
 「え? 紅茶に入れるんですか?」
 「うんvv」

 はぁあと溜息ついてたお顔はどこへやら。ポットに入れて持参したストレートティーに、五郎兵衛殿がチョイスしたという折り紙付きの、特上メイプルシロップを垂らしたの。カップを大事そうに両手持ちにし、こくりと味わう白百合さんで。

 「うあ、やっぱり美味しいvv」
 「どれどれ…あ・ホントだ。」
 「でしょう? 久蔵も飲んでごらんよ。」
 「…。(頷)」

 ふわり、品のいい甘さが喉から胸元までをくるみ込んでの暖めて。
 ああ、疲れとかストレスとか一遍で吹っ飛ぶよね。
 そうですね、午後の作業も頑張ろうって覇気が沸きますし。
 ………。(〜〜〜同意)

 忙殺されそう…とかいうほどじゃあないながら、それでもパタパタと慌ただしいポジションから、一時的にでも隔絶されているのがありがたいなぁと。陽あたりのいい芝草の上、ついつい集まった猫のごとくに、そのしなやかな身を“う〜ん”なんて伸ばしていたお嬢さんたちだったものの、

 「……で、何の話をしてたんだっけ。」
 「あれ?」

  もしもし?
(笑)

 「そうそう。バンドの話だった。」

 何とか思い出した七郎次の肩を、やぁだと自分の肩をぶつけてどやしたのが平八ならば。えへへぇと舌を出して照れたように微笑った白百合さんへ、目許和ませ、品よく微笑い返したのが紅バラさんで。何せそちらは“こっそり”という進行なので、そうそう何処ででも口に出来ることじゃあないのがなかなかに辛い。

 「今朝方、OGバンドの幹事さんからメールがあってね。
  選曲と演出の刷り合わせはあれでOKですって。」

 こちらの三人娘が加わる段取りの部分が“シークレット・ライブ”という格好になろうそれは、だが。表向きには“4's ガールズバンド”の演奏という格好で、様々な準備が進行しており。練習は順調で、衣装合わせも既に済んでいて。先日、OGと職員の方々が組むバンドとも、演奏曲が重ならないか、演出や流れが似通らないかという、互いの演奏の段取りを報告し合ったばかり。

 「ちなみに、どっちが先に演じるかは、
  厳正なるあみだくじと天神様の言うとおりとで決めました。」

 初日が来賓招待日、翌日は父兄とOG優待日。そして最終日が、一般の方々もご案内する公開日。今年は“文化の日”が週の真ん中なので、最終日に据えても初日に据えても、来賓招待日以外が平日になってしまうという巡り合わせの悪さで。基本、部外者のお越しは歓迎しちゃあいないので、本来だったら そこはさしたる問題ではないものの。

  ―― どうせだったら あの商店街の皆様もご招待して、
     晴れの舞台の演奏も聴いてもらいたいよねと

 そんな企み(vv)を思いついた、二年生のお姉様がたの提案から、OGバンドは祝日の初日、ガールズバンドは平日にあたる楽日の舞台を務めることに、折り合いも着いての、さて。

 「ゆっこちゃんに言って、
  商店街の皆さんの都合を訊いとかなきゃですね。」
 「確か木曜定休のお店が多かったはずですが、
  何でしたらお留守番の手配くらいはさせていただいて。」
 「……貸し切っても。」

  喫茶店とか定食屋さんをとかですか?
  ………。(頷、頷)
  久蔵ったら、またそういう無茶ぶりを。
  あらでも、それも手かも知れませんね。
  ヘイさん?
  開店休業とさせるよりは、余程マシってもんですよ。

 「どうせ何処かでご飯は食べるし買い物もするのなら、
  あの商店街でしてもらやいい。
  買うのは決まった銘柄だけってのなら、
  店側でそれを揃えてもらやいい。」

 うふふんと笑ったひなげしさんのお顔は、微妙に“したり顔”だったので、

 “そういうところは今世で磨いたな、ヘイさんたら。”

 脛に傷もつ身だったからか、どうあっても清濁合わせ呑めなんだのは、何処のどなただったやら。頼もしくなったものよねと、こっそり苦笑をこぼした七郎次だったが、

 「? 久蔵?」

 ふと、もう一人のお友達が、その視線をとある一角へと向けているのに気がついた。すべらかな頬の線をだけ、こちらに向けるというほどの極端な見やりようであり。一体何をそうまで熱心に眺めているのかと、七郎次が同じ方向を見たものの。

 「???」

 校舎から均等に離れたスズカケの木陰は、それだからこそ誰か何かが近寄れば、すぐさま判るという絶妙な場所でもあり。すぐさま目につく何かがあるというのなら、七郎次の目にも留まるはずなのだが…特に何も見当たりはしなくて。

 「久蔵?」
 「………。」

 何でもないなら そうと言うはず。だってのに、どこか困ったように緋色の口許を咬みしめてしまった紅バラ様であり。

 「???」
 「えっと?」

 まだちょっと、陽のあるうちはほこほこと暖かい、そんなお庭での寛ぎへ、急な暗雲が思わぬところから垂れ込めた模様だ。







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